2019年11月21日(木)

今回の卓話

「病は気からを科学する」

NPO法人医療制度研究会副理事長
本田宏

皆さん、今日は歴史ある東京山の手ロータリークラブでお話させていただけるということで、短い時間ですが頑張ってお話したいと思います。

私は福島県で生まれ、父が開業した小さな洋品店の息子として育ちました。高校3年生の秋まで、将来の夢はパイロットでしたが、母に反対され、泣く泣く夢をあきらめて、青森県の弘前大学を卒業して医師になり、東京女子医大、その後埼玉県の病院でも勤務をし、現在に至っております。

私は2002年7月から医療再生の活動をしてきました。日本では、医師不足と病院の赤字を理由に公的病院の再編統合が進められようとしています。日本の医師不足を、国は医師の偏在が問題だと言っていますが、日本の医師数はOECD加盟国平均を大きく下回っています。それにもかかわらず、厚労省は、医師が将来余ると言って医学部の定員を削減してきました。私は非常に理不尽だと思ってこの活動を続けています。

それでは、今日のテーマ、精神神経免疫学のお話に入ります。 私たちはストレスを脳で感じます。常に目から入る情報や、暑い寒い痛いといったストレスが脳に入ってくると、自然と内分泌、ホルモンや免疫が作動します。分かりやすい例をご紹介します。1995年の阪神大震災の際には心筋梗塞で亡くなった人がたくさんおられました。震災で亡くなる方の中には、火事とか家屋の倒壊だけでなく、ストレスによる心筋梗塞という方も少なくなかったのです。 私はこの当時、埼玉県の済生会栗橋病院で外科医として働いていましたが、「仮設住宅孤独死、83人」という新聞記事を見て、恐らく高齢の方が亡くなっているのだろうと思って読み驚きました。働き盛りの男性が多かったのです。男性はどうしても孤独になりがちです。 社会からの孤立は、肥満、運動不足、喫煙と同じくらい健康に害を及ぼし死亡のリスクが2倍になる、群衆の中の「孤独」が人をむしばむと言われています。ちなみに貧しくても健康長寿のコスタリカには、強い社会的な絆があるそうです。

今日は、私の話に笑いが少なくて申し訳ないのですが、いつもは冗談を言いながらお話しています。 というのも、笑いは免疫に直接影響するというデータが数多く出ているからです。

私たちの体の中では毎日がん細胞が生まれていますが、がん細胞を殺す免疫細胞であるナチュラルキラーが夜寝ている間にがん細胞をやっつけてくれます。このナチュラルキラーは笑うと活性化するのです。「なんばグランド花月」でお笑いを聞いた癌の患者さんの、笑う前と笑った後のナチュラルキラー細胞を調べたところ、笑った後で機能が上がったという研究結果は有名です。

また、林家木久蔵さんの落語をリウマチの患者さんに聞いてもらい、前後で痛みのチェックをしたところ、落語を聞いた時の方が、鎮痛剤服用後よりも痛みが軽減し長く持続したという研究結果も出ています。「楽しい笑いは副作用のない薬」です。林家木久蔵さんの色紙に「よく笑うヒト 人生の達人」とありますが、健康に生きるためには笑って生活した方が良いのです。

何故私がこのようなことに興味を持ったのかと言うと、医師不足が関係しています。私は東京女子医大で腎移植、肝臓移植を研究して、移植外科医になりたかったのですが、日本は先進国の中で臓器提供が一番少ない国なので、臓器移植で貢献したいと思ってもできない。それで埼玉県の病院で、一般外科で多くの患者さんを治療するようになりました。医師不足ですから、外科医は乳癌の疑いのある患者さんのしこりの診察をすると、そのあと細胞診、手術、術後の抗がん剤投与、万が一再発した時には鎮痛剤の投与、そして最後のお見送りまで担当するということが普通だったのです。一人一人の患者さんに向き合いながら、あるとき、乳癌の患者さんの気持ちと病気の進行に関係があるのではないかと思うようになりました。ある時、1985年の『Lancet』という権威ある医学雑誌で、乳癌の患者さんの術後3か月の心理状態によって長期生存率が異なるというデータを見つけました。5年、10年、13年の生存率で見ると、一番早く亡くなるのは絶望する人、二番目は受け入れる人、素直な人、三番目は否定する人、そして一番長生きできたのはファイティングスピリットがある人でした。そしてこの生存率の差は、抗がん剤治療によるものよりも大きかったのです。私は、患者さんが前向きになれるように協力をして治療にあたることができれば、副作用もお金も少なくて済むかも知れないと考えて勉強を始めました。ただ、患者さんの精神状態は血液検査やレントゲンと違って、簡単には確認できないので、一般の医学界ではほとんど無視され、関心も持たれませんでした。

しかし、2002年に、世界的に有名な腫瘍内科医の上野直人さんが、「〇〇癌センター等、名前に癌がつく病院の治療成績が、全国平均より良いのは、始めから患者さん自身が癌と知り、強い意欲と希望をもって治療を受けていることが影響していると考えられる」ということを日本の学界で指摘され、私はとても勇気づけられました。 さらに、2008年の『Cancer』という医学雑誌に、「心理学的介入は乳がん患者の生存を改善する」という研究結果が掲載されました。さらに、今年(2019年)岡山大学の神谷先生は、ストレスと乳がんの関係について研究をされ、交感神経の密度の高い人、すなわち緊張状態にある人は、「術後の再発や死亡率が高いことを確認した」、「交感神経を刺激すると、がん細胞が増殖し、転移も増え、交感神経を除去すると抑制」という内容のデータを発表されています。つまり私が長年考えてきたことが証明されつつあるのです。

長生きする方法、健康に生きる方法は男と女で微妙に異なるようです。和歌山県立医大循環器内科の先生が調べたところ、循環器疾患で死亡率が上昇する危険性が高まるのは、男性の場合は「生きがいの欠如」、女性の場合は「人に頼りにされないこと」でした。

また、人間の追及する二つの幸福と健康の関係を示す、大変興味深いデータを見つけました。一つは「生きがい追求型幸福」、もう一つは「快楽追及型幸福」です。 大好きな人のためにケーキを作るのが前者で、大好きなケーキをお腹いっぱい食べるのが後者で、本人にとってはどちらも幸せです。しかし、精神神経免疫学的な調査の結果、後者の幸せは、身体がストレスを感じているときと同じ反応を示すことが判明しました。まさにアリストテレスが残した「最高善こそが幸福」という言葉が近代科学で証明されたのです。

乳癌を患いながら映画『ゴルダと呼ばれた女』に出演し女優賞を取ったイングリッド・バーグマンも手記に「最後まで闘うことをやめません」と書いています。レオナルド・ダヴィンチの言葉にも「充実した一日が幸せな眠りをもたらすように、充実した一生は幸福な死をもたらす」とあります。法然上人の「知足」、足るを知る。中国のことわざには、「一生の幸福が欲しいなら人を助けなさい」という言葉があり、ジェラール・シャンドリの言葉に「一生を終えてのちに残るものは、われわれが集めたものではなく、われわれが与えたものである」とあります。まさに、ロータリークラブの皆さまの活動にぴったりだと感じております。

ご清聴ありがとうございました。

【卓話編集後記】
本田先生には、免疫機能に対する笑いの影響を医学的なデータに基づいてご説明いただき、日常生活に笑いを取り入れることが健康維持のために大切であることを痛感しました。ユーモアあるジョークを交えた本田先生の卓話で、大いに笑った会員の免疫機能はきっと向上したに違いないと感じた卓話でした。 また、医師不足という日本が抱える問題についてもお話いただき、日本の医療について考えるきっかけにもなりました。