2021年12月16日(木)

今回の卓話

「ビスポーク(オーダー靴)の魅力について」

靴職人
土屋 聡

皆さん初めまして、土屋と申します。よろしくお願いいたします。

私は東京の国分寺でビスポークというオーダー靴、手で一つずつ靴を作る仕事をしております。今回、オーダー靴がどういうものかを知っていただけたらと思いお話しさせていただきます。

私は、靴を作り始めて20年、年齢は46歳です。高校卒業後にプロのダンサーとして、ヒップホップと言われるストリートダンスをやっていました。ヒップホップダンスは黒人の音楽から始まったもので、黒人のダンサーとも仲良くショータイムに出演したりしていたのですが、その中で黒人に対する差別などがあることを知り、自分は何も知らない人間なのだと気づき、世界の文化に対する興味が広がりました。そこでバックパックで旅に出ることにしました。7か月余り、少ない荷物を背負って陸路で世界中を回る中で色々な経験をしました。ストリートで手で物を作って売る人々をみたりして、物づくりに興味を持つようになりました。

日本の二大巨頭の靴の町の一つ、東京浅草にある東京都の職業訓練校に入ったことで私の靴との関わりが始まりました。単純に手で靴を作ることが楽しかったので、この感じで就職できないかと考えましたが、当時は量産靴を買うのが主流の時代でした。靴を手で作る唯一の就職先が義肢装具の会社でした。障害者のための靴は一つずつ、お客様の足と症状に合わせて作っていきます。この義肢装具の会社で靴を作っていく中で二人の師匠と出会いました。
一人はオーダーパンプスの巨匠の斉藤師匠です。師匠は、昨年引退されましたが、それまで私は週1回お手伝いをしながら、足のことや健康のことをたくさん学びました。
もう一人が、津久井玲子師匠です。日本の伝説の靴職人で業界ではレジェンドと呼ばれる関信義さんの一番弟子です。関さんは亡くなられましたが、私は関さんの一番弟子の一番弟子なので孫弟子となります。その縁があって、きれいな革靴、長く持つ革靴を学ぶことができました。

こうしてずっと靴を作り続けています。そして今は、専門学校で特別専門技術を教えたり、自分の工房に皆様もご存知のような某大手靴メーカーのプロの方々が習いに来ています。量産靴は、専門が分かれており完全分業で作られています。分業ゆえにプロフェッショナルであり、良い点がたくさんあります。 一方、私のビスポークという一人が一つずつ全てを作っていく靴は、一つずつの工程で問題解決をすることができ、終始細部まで丁寧に作り上げられます。この一人が最後まで全部責任を持って作業できることが一番大きな魅力です。私は習いに来ている方々からもたくさん教えてもらって、日々精進しています。

古い時代にはヨーロッパで職人同士が技術を競い合う大会が開催されていましたが、近年は手作りの靴が主流でなかったために長年開催されていませんでした。それが最近、手作りの靴の魅力が見直され、2018年に世界大会が復活しました。この大会にはジョンロブやコルテ、カジアーノ&ガーリングなどの名店と言われる靴屋のビスポークを扱う職長クラスが参加しています。私も面白いと思って2019年の大会に出場しました。この世界的に技術を競う靴の大会で10位までが入賞のところ、私は7位になり世界のトップテンに入ることができました。

また、国分寺市のふるさと納税で私の靴を買うことができます。そこで会員の青栁様と出会い、今回の卓話に至るということになりました。

さて、ビスポークについてお話いたします。
ビスポークはオーダー靴ということになります。ビースポーク、ビースポークンとも言います。直訳すると職人の話を聞きながらオーダーするという意味のようです。スーツのオーダーでも使われる言葉です。私は、「話される」の直訳から、ビスポークを「仰せのままに」と捉えています。高い技術でお客様の要望を叶える。足に合わせて、格好良いデザインで、堅牢で一生持つような靴を作る責務がある仕事だと考えています。

ビスポーク靴の魅力の一つは堅牢であることです。皆さんが履いているような靴の形はイギリスのノーザンプトンで生まれたと言われています。産業革命でセメント靴など値段が安く気軽に買える靴が登場しました。しかし、昔からある作りで、いまだにそれを超える製法がない堅牢な靴であることがビスポーク靴の大きな魅力となっていることを知っていただきたいと思います。

もう一つの魅力は一人の職人が一つの靴を徹底的に作り上げる点です。先ほどお話したように、私は教職にもあるので、某大手メーカーの企画の方から相談を受けることもあります。量産靴で専門性を持っている人はその専門分野については長けています。しかし、他の分野で問題が起こったり、最後の完成図が見えないために問題解決ができないことがあります。ですから、お客さまの足を見て、歩き方や好み、普段の生活を聞いた上で一つの形を作り上げていくことが一つの魅力だと思います。

皆様に靴でのトラブルなど何かあれば伺えますか。

Q: 私はくるぶしが人よりも出ているので、既成靴だと脇の部分がくるぶしに当たって血が出たりするのが困ります。

A: 足には56本の骨があります。脚部の脛骨腓骨が拠点を取る距骨がありその下に踵骨つまり地面を踏むかかとの骨があります。脛骨腓骨が距骨とつながるそのでっぱりがくるぶしです。くるぶしの高さは人によって異なります。一方、既製品は一つの形で、統計的にこのサイズならくるぶしの位置はこのあたりと決めています。ですから自分の足よりも大きいサイズの靴を履くとくるぶしに当たるという可能性があります。ビスポーク靴の場合はくるぶしもきちんと測って当たらないようにデザインすることができます。

Q: 私は女性用の靴をオーダーで作ったのですが、出来上がった靴がリハビリで履くようなみっともない靴で、外で履けるような靴ではありません。結局今はスニーカーを履いていますが、スニーカーだとヒールの靴が履けなくなります。ヒールの靴は常に履いていないといけないのでしょうか。

A: オーダー靴の難しい点は、足に合わせると足に近い形になってしまうという点です。既製品はある一定の足の体積と作りやすさ、足へのなじみ方で成立するように作られているので、時には過度に格好よく作られています。 ヒールの靴は見た目に美しいと思います。ふくらはぎを緊張させるので鍛えられます。ただ地面を踏む場所の高低差があるので、痛かったり疲れたりします。ヨーロッパでは足のことを考えて、パンプスなどは現地で履き替える風習もあるようですが、日本ではそういうことがないので、女性の悩みとしては一番多いですね。

Q: オーダー靴を注文した場合、依頼してから商品が届くまでどれくらいの時間がかかりますか。

A: 私の実働時間を1日12~16時間労働として考えると14日から16日くらい、8時間労働として考えるとおひとり様約1ヶ月となります。 しかし、一人のお客様の靴だけを作るわけではありませんし、革のなじみとかマテリアルの伸びなどの時間がありますので、私がオーダーを受けるときは1足9か月いただきます。早いと半年くらいの場合もあります。

今日はどうもありがとうございました。