今回の卓話
ご紹介ありがとうございます。
私は32年間公益財団法人アジア人口・開発協会(APDA)で、人口と開発に関する国会議員活動を支援してきました。アフリカ・アラブの議連に関しては、当時、人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)議長であった桜井新議員の補佐を務めていたことから、その立ち上げからかかわり、今なお密接な関係が続いています。退任に際しては色々な形で高く評価していただきました。
日本は持続可能な開発分野にその当初から深くかかわってきました。SDGsの基になっている“持続可能な開発”という概念は、国際人口問題議員懇談会(JPFP)の会長を務めていた福田赳夫元総理が国連の日本政府代表部を通じて1984年にその設立を働きかけた国連のブルントラント委員会で確立した概念です。このことはほとんど知られていません。日本は自分たちの成果を宣伝することが下手ですね。
私も1994年の国際人口開発会議(ICPD)に先駆けて開催された国際人口開発議員会議(ICPPD)の宣言文の起草を担当するなど、かなり早い時期からその形成に関わりました。SDGsの概念形成にそれなりに貢献できたことを大変誇りに思っています。
実はSDGsはいろいろと矛盾する概念を寄せ集めています。議員活動の事務局として、この問題を解消するために呻吟してきたのですが、SDGsがそれをまとめる際にそのことを見事に棚上げにしたことに驚きました。
例えば「人権」を誰でも大事だといいますが、世界中どこにも定義がありません。そして戦争でも起これば簡単に踏みにじられます。アメリカ最高裁判決が世界的な話題になっていますが「中絶権」の問題もその一部です。私自身、中絶を人権とするという考え方には疑問を抱き、1994年以来長年この問題を考え続けました。2019年に「人権」の定義づけを行う過程で自分なりに答えが出ました。そして喜んでいたのですが、お釈迦さまが2500年も前にすでに考えられていたことを再発見しました。さすがお釈迦様ですね。
このような形で国会議員の人口と開発に関する活動の理論的基盤を提供することが私の主な仕事でした。
先日亡くなられた安倍晋三先生とも1995年の世界社会開発サミットに合わせて開催された議員会議に1週間ほど同行し、安倍先生のお人柄に触れることができました。今回の事件で惜しくも亡くなられましたが、世界的に見たときその殺害理由が理解できないであろうと考え、日本に対する誤解を避けたいと思い国連関係の通信社を通じて、弔意を世界中に配信させていただきました。
今日のテーマは“アジアの高齢化とビジネスチャンス”です。高齢化は現代の典型的な人口問題です。人口をどう理解したらよいかはなかなか難問ですが、端的に言えば、人口が急速に増えるのも減るのも困ります。安定、すなわち増加も減少もない状態が一番よいのです。持続可能な開発を実現するためには人口の安定が不可欠ですが、それは人口転換という過程を通じて実現されます。高齢化はその結果としてどうしても生じてしまう現象です。これらの課題に対応するために、人口問題の全体像を理解する必要が出てきます。これまでの議論をまとめたものをこの秋に「時潮社」から出版します。宣伝になりますが、機会がありましたら是非お読みください。
人口問題は数字で表されますが、その一つの数字は一人の人間のかけがえない人生を表していることを最初にご理解いただきたいと思います。つまり人口は社会そのものだといえます。世界では毎年1億2000万人くらいの子供が生まれていますが、そのうち3000万人くらいは望まれない妊娠の結果として生まれています。10年で3億人の人が望まれない形で生まれているわけで、子供に対する投資はされず、虐待や人身売買や援助交際や売春につながる可能性があります。これは世界だけでなく、日本でも問題かと思います。人口問題はひとりひとりの人生にかかわることだと想像すること、数字の後ろにある現実に思いをはせること、RIジョーンズ会長のおっしゃる通りイマジンすることが大切だと思います。
7月13日の日本経済新聞一面に“世界人口の増加率が1%を切った、世界経済の転換期”という記事が掲載されました。私はショックを受けました。経済成長1%といえば低成長のように感じますが、人口の場合、1%の増加率とは約70年で人口が倍増するということです。一人一人の豊かな生活を維持しながら、どうやってこの地球上で暮らしていけるのかという疑問が生まれてきます。私の師匠である黒田俊夫は人口増加率を1%以下に抑えることができれば、人類は持続可能な開発を達成できる可能性があると話していました。
日本では少子化の問題を捉えて、かつてのようなピラミッド型の人口構造を作らないと日本が成り立たないという議論がありますが、これは明らかに間違いです。かつては人口転換の中で生じる特殊な状況のなかで若者を安く使え、過剰な負担をかけることができた時代だったのです。経済発展に伴って人口は変化しますが、逆に経済のために人口を変化させることに成功した試しはありません。これは人類史の鉄則とも言えます。
子どもが欲しいカップルが子どもを持てるようすることは重要です。しかし、それがこれまでうまくいった経済システムを守るために必要だという議論は本末転倒です。人口と経済の関係から言えば、現在の人口を与件としてどのような社会をつくるかを考えていくしかありません。
人口問題には実は出生と死亡の2つの要素しかありません。そして持続可能な開発を達成するためには、この地球環境を壊さないことが不可欠です。その意味で人口の安定化への努力がその前提となり、そのうえで人口構造を踏まえた上で人口の変動に合わせたビジネスモデルを作るしかありません。日本は、その意味から考えると、世界の先行事例です。その優位性をいかしたモデルと作るかを考えていくことができれば、日本に勝機があると思います。
人口の高齢化は、多産多死から少産少死への移行、すなわち人口転換に伴って起こります。日本では、高齢化率が7%から14%に増加するのにかかった期間はわずか24年間です。ちなみに、フランスでは126年かかっています。アジアでは高齢化のスピードが速く、あと10年か15年で日本と同じ、あるいはそれ以上に深刻な高齢化の問題を抱えることになりそうです。人口転換の速さが速ければ、高齢化への移行も速く進みます。これからビジネスを考える場合でも、人口が増えていけばなんとかなるという幻想は捨てなければなりません。
高齢化のビジネスチャンスについては、日本の経験を活用することが必要です。しかしそこでは先行者利益をいかにとるかが課題となりますが、ことはそう簡単ではありません。先行者利益が取れる業界はオリジナリティのあるビジネスを開発してそれを知的所有権などで囲い込むことが出来る業界だけです。そのほかのビジネスでは、先行者の知識をほとんどただ乗りで使える後発者が利益をとってしまうのです。では、この中で日本はどうやって利益を得ていくか。これが本日の主題となります。
現実的に考えると次から次へと、他が追いつかないほど質が高く、安いものを生産するしかありません。ただ、このことは、あまりネガティブに考える必要もないと思います。日本政府はグローバリズムという視点から、医療産業などで利益を得ようと考えています。しかし、囲い込んで、特許で儲かるかというとなかなか難しいようです。先行者利益と後発者利益の関係は、ビジネスを考える場合に重要なポイントですので、覚えておいていただければと思います。
もう一点、学問と政治、政策、経営に関する話になります。学問的に考えて矛盾があっても成功するということはまずありません。人口も同じで、人口の変化を踏まえないビジネスは成功しないでしょう。つまり人口や学問の成果を無視して成功することはないということです。しかしながら、どうしたら上手くいくかは、センスや勘次第になります。松下幸之助が、経営学は教えられるけど、経営は教えられないと嘆いていたという話がありますが、それと同じです。
人口というものを理解しても成功するかはわかりませんが、ただそれを踏まえておかないと長期的にはマーケットを見失い、確実に失敗します。従って、人口を考慮に入れておくということは、それを知らないのに比べれば長期の企業戦略などを考える場合に段違いに有利な状況を生み出しうると思っています。
高齢化ビジネスについて一つだけ例をあげて、お話を終わりにしたいと思います。
高齢の義母を東京に呼び寄せた際に、介護のために住宅を改造する必要がありました。その際、普通の扉だと重くて開けられませんでしたが、それを吊り金具にするだけで扉の開け閉めが軽くできるようになりました。
その経験から言えば、マンションを建てる時に最初から逆梁工法を基本にして建築し、住居に最初から吊り金具をパッケージングしておくというアイデアはいかがでしょうか。そうすれば費用もあまりかからず介護が簡単にできるようになると思います。
具体的には、吊り金具で各部屋から廊下をつなぎ、ベッドをエレベーターまで運べるようにすれば一人でも軽く運べます。そうすれば大規模マンションで高齢化が進んでいったときに、それを改装して高齢者用マンションとすることが容易になります。そのような基本的な設計や設備があれば、介護が必要になった時は介護ベッドが簡単に運び込めます。
そのような無理のない使い方ができるような工夫をしておくという考え方です。そうすれば各国で高齢化対策を行う際に、規模の経済が活用できます。日本における今後の市場としても同じことが言えますが、アジアで高齢化ビジネスを展開する際には、いかに少ない負担で、メリットを増やすことができるか、ということを考え、それらをパッケージにして売り込むことが必要なのではないかと思います。
今日は、時間的な制約もあり具体的な話にはなかなかつながりませんでしたが、基本的な考え方はお伝え出来たのではないかと思います。
ご静聴ありがとうございました。
質疑応答
Q:先生のお考えでは、現在の日本の経済や日本の在り方から、日本の人口は何人が正しいと思っていますか。
A:レスター・ブラウンは、世界の人口が何人くらいが良いかは、あなたの希望する生活水準次第だと答えています。日本の人口に関しても同じだと思いますが、現実的に考えて江戸時代の人口である3000万人程度までであれば扶養できます。まったく環境破壊をしないで人間という種が地球という生態系の中で存在できる人口規模は1000万人が限界だと言われています。つまりとっくに超えてしまっているのです。その中で今の豊かな生活を維持できる社会を作っていけるか。どうやって他人の命を尊重できるか、この点がまさにロータリーの目標である“久遠の平和”を作るために重要だと思っています。
少子化との関係でいうと、AIの活用が進むと、労働力は無意味化するかもしれません。一番労働生産性の高い場所は人がほとんどいないAMAZONの倉庫です。それでは雇用につながらず、人間が食べていくことができないので、何のための生産性かわからなくなりつつあります。その意味では生産性という概念そのものを見直す必要が出てきていると思います。
しかし、間違いなく言えることは、未来を創るのは若者だということです。その意味では若者を鍛え上げる必要があります。目標設定ができるのは人間だけなのです。大学ではAIに使われる人生は、AIより安い仕事しかないということで面白くないよ、AIを使う人生を送れるように努力してほしいと日ごろから檄を飛ばしています。
ありがとうございました。
