2022年7月28日(木)

今回の卓話

「心をつかむコミュニケーション」

元フジテレビアナウンサー
河野 景子

皆様こんにちは。河野景子でございます。
今日は、「心をつかむコミュニケーション」というテーマでお話をさせていただきます。

私はロータリークラブとは縁が深く、父が宮崎ロータリークラブの会員でした。私が中学3年の時、アメリカからのロータリー交換留学生が我が家にホームステイしました。高校生だった留学生のテリーは、日本語も全くわからない上に規則だらけの日本の高校に馴染めず、ホームシックにかかってしまいました。ところが、高校では日本の学生が優しくテリーに接し、コミュニケーションが交わされて行きました。次第に彼女は日本の生活習慣を受け入れられるようになり、日本文化を学び、あっという間に日本語を話せるようになり、日本が大好きになったのです。たった1年で大きく成長した彼女の姿を目の当たりにした私は、同じ経験をしたいと強く思い、ロータリークラブの交換留学生として1年間アメリカニューヨーク州に留学しました。アメリカでは、それまで習ってきた受験英語が現地での英会話に応用できず意思疎通にかなり苦労しましたが、一つ一つ学び異文化交流の経験を積み、貴重な1年間を過ごすことができました。大学進学時は、アナウンサーになる夢を抱いていたのですが、私の話す宮崎のイントネーションが標準語とかなり違っていることに気づき、一時はアナウンサーへの夢は封印しようと思いました。しかし、両親に背中を押され、チャレンジしたフジテレビに運良く入社することができました。当時、私は海外の情報を伝えることでフランス駐在を希望していました。会社からは、アナウンサーのフランス駐在は前例がないと言われていたのですが、毎年、社員全員が提出するレポートに、構わずその希望を書き続けました。すると、1990年の湾岸戦争勃発を機に、東京・ニューヨーク・パリを結ぶ3元生中継のニュース番組が始まり、フジテレビパリ支局にアナウンサー第1号として派遣されることになったのです。こうした経験から、夢は口に出すことで一歩近づき、チャンスが巡ってくる、さらに運が良ければつかむことができると強く思うようになりました。

これまで、フジテレビアナウンサーとして、結婚して勝負師の妻として、相撲部屋の女将として経験を積み、多種多様な場面で活躍する様々な人たちとコミュニケーションを深めてきました。その経験から今日は皆さまにお話いたします。

コミュニケーションは、「伝える」「聞く」「共有する」この三つが整ってからこそ、うまく成立したと言えます。コミュニケーション能力が高い人とはどのような人でしょうか。もちろん話が上手な人ですが、正確に伝わるように言葉を選び表現できる人、聞く力が備わっていて言葉の裏で何を伝えようとしているかを汲み取ろうとする人、またそれらを共有できる人がコミュニケーション能力の高い人だと思います。コミュニケーションには言葉で伝える「言語化コミュニケーション」の他に、言葉に頼らず、表情や身振り手振りなどの仕草や声のトーン、間の取り方などを手段とした「非言語化コミュニケーション」があります。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンの「メラビアンの法則」という面白い研究発表があります。初めて会う人の第一印象がどこで決まるかというものです。この研究発表によると、視覚から入る情報が55%、例えば、服装や姿勢やジェスチャー、顔の表情など視覚から入る情報です。そして声の調子や話すペース、声色などの聴覚情報が38%。言語情報はたったの7%です。第一印象は視覚・聴覚情報で93%、9割が決まるということなのです。本日私は、手振りジェスチャーも使い、声もしっかりと届くように意識してお話し致します。

さて、私たちがマスクで顔の3分の2を覆う生活を強いられて2年半が経ちました。必要がなければ人に会わず、会ったとしても大きな声で話すことができない生活を送ってきました。日本語は便利なもので、口をあまり開けなくても話せる言語です。ですからマスク生活で、顔の筋肉を十分に使わずに過ごしてきました。その影響で顔の表現力がすっかり乏しくなったと感じていませんか?正確な口の開け方を忘れ、滑舌よく話せない、声が出にくい、顔の表情がついこわばり言いたいことが上手く伝わらないという声を最近多く聞きます。大変なことに第一印象を93%も左右する大事な情報(視覚・聴覚情報)が発揮できなくなっているということです。

ご存知ですか?リラックスして口を閉じている時の舌の位置は、上顎の前歯の歯茎のあたりについているのが正しい位置ということを。舌の先端が口の真ん中にあるという方や下顎の中にあるという方は、舌の先端を上の歯につけようとすると大変だなと感じると思います。そういう方は舌の筋肉を鍛えるために、上下の歯の外側に沿って舌をぐるりと大きく左右に3回ずつ回す体操をしてみましょう。ついでに、ほうれい線と頬も内側から舌で押しましょう。この体操をすると舌の筋肉を鍛えることもできますし、同時に口の中に唾液が出てきます。唾液は口の中を清潔で健康に保つ効果があります。また、唾液がたくさん出ることで舌が滑らかに動きます。舌が滑らかに動くということは 聞き取りやすい話し方ができ、声に表現力をつけるためにも大事なことです。

マスクで隠していた顔の表情筋は、日本語の母音「あいうえお」を正しい口の開け方で発音することで鍛えられます。「あ」は指が縦に3本入るくらい口を開き、上の歯が見える状態で大きく開けます。「え」は指2本が入るくらい唇を左右に開き、口角を横に上げます。そうすると大頬骨筋、小頬骨筋というほうれい線をぐっと上げる筋肉が動きます。「い」はニコッと笑った時の口元です。指1本入るくらい唇を左右に開きます。口角をキュッとしっかりあげましょう。前歯が8本見えるくらい開けるのが理想的な笑顔の口元です。私がフランス駐在時代にインタビューさせていただいたオードリー・ヘップバーンさんは終始この「い」の口元でした。「あ」「え」「い」で左右に引き上げる筋肉を鍛えたら、口をすぼめる「お」と「う」の動きをして口輪筋も刺激します。母音で顔の筋肉を鍛えて表情豊かに表現できるように。発音を明瞭にするにはいろんな訓練方法がありますが、まずは舌の体操と口の開け方を意識することから始めてください。第一印象の93%を占める視覚情報と聴覚情報を発揮するために大きく役立ちます。

伝え方にも様々な方法がありますが、相手がイメージできるような実際のエピソード、例え話や数字を使って話を組み立てると効果的です。例えば、相撲の話をするとして、『本場所で十両以上の力士は土俵に塩を撒きます。本場所中はものすごく大量の塩を使います。』と話をしたとします。あら、皆さまの目の色が随分変わりましたね。具体的な数字を補足しましょう。本場所中、1日にどれだけの塩が必要かというと、なんと45キロです。1場所15日間ありますから、1場所で675キロ必要で、巡業も含めると日本相撲協会が年間に使う塩は約6トンだそうです。『大量の塩が必要だ』と伝えるだけよりも実際に数字を伝えるとより印象深くなりますよね。数字を用いるとイメージしやすく説得力を増す効果があります。コミュニケーションでは、このようにイメージしやすく分かりやすく伝えることもお互いの感情や情報を共有するためのテクニックとして大事です。

締めに、日本語の「結ぶ」という言葉の語源の話をさせてください。日本には様々な結ぶ文化があります。着物の紐や帯、髪結い、お弁当のおむすび、仲間同士の絆や男女間の契り、神社ではおみくじも結びます。漢字で「結」は糸へんに吉と書きますが、糸はずっとつながっていくという意味があります。つまり良いことがずっとつながっていくということが「結ぶ」という漢字の語源になります。次に、「結ぶ=むす・ぶ」ひらがなで語源を調べてみますと、「むす」=「生す」「産す」「蒸す」とも書きます。生命が宿る、生きるという意味です。「むす・こ」「むす・め」も同じ語源から派生した言葉です。「ぶ」は日本神話のタカムスヒノカミ、カミムスヒノカミの「ヒ」からきているそうで、「ヒ」が活用して「ぶ」になっているそうです。意味は、生命を生み出す神秘的な力・神聖な霊力。そう読み解くと「結ぶ」という言葉は、「神秘的な何かが生まれ、永続的につながっていく」という深い意味があると理解できます。

「結ぶ」を英語にするとなんでしょう。「connect」が適していると思います。「connect」と同じ語源の言葉にcommunicationがあります。コミュニケーションは人の心と心を繋げ、コネクトしていきます。どちらも語源は一緒で、共有し、結ばれ、つながっていくということ。心をつかむ良いコミュニケーションを重ねていくと、何か神秘的な力が生まれると感じませんか?

本日の私の話は、皆様の心をつかむことができましたでしょうか。

ありがとうございました。