今回の卓話
本日はお招きいただきましてありがとうございます。プロゴルファーの横田真一と申します。
僕がツアーで1勝目をあげたのは97年の25歳の時でしたが、2010年のキャノンオープンで13年振りに優勝しました。2006年にシード権を落としていたので、かなり力が落ちて選手寿命も終わっていたような時に、順天堂大学の小林先生に出会い、「自律神経をコントロールできたら、もう一回優勝できますよ」という一言から始まりました。この言葉を2010年に言われて、優勝争いのチャンスをものにした、その秘訣を皆さんにご紹介させていただきます。
小林先生は、『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』をはじめとして自律神経コントロールに関する本を何冊も出されています。僕は、優勝した後に、自律神経をコントロールできるのはすごいと思い、順天堂大学大学院の医学研究科を受験して入り、4年間研究して医学修士を取りました。僕の修士論文は「プロゴルファーにおける自律神経活動とパフォーマンスの関係」というものです。ゴルフトーナメントの期間中にフィットネスカーに来てもらい、試合の朝、選手全員に2分半の自律神経の測定を行いました。皆さんご存知だと思いますが、自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は「闘争と逃走の神経」と言われています。例えば、ライオンに噛まれて、ライオンと闘うのか逃げるのかという時に交感神経が振り切った状態になります。そうすると身体中の血管が収縮して、顔面蒼白、頭は真っ白で、血流が非常に悪い状態になります。次に、副交感神経は上がると手足がポカポカしてきます。血流が上がったのかと思われるかもしれませんが、その逆で、指先の血管など末梢の血管が弛緩することで、心臓に集められた血液が流れ出てしまっている状態です。ホースでの水撒きをイメージすると、ホースが細すぎる時は交感神経優位で、太すぎる時が副交感神経優位な状態です。小林先生は、「健康もゴルフも、要は血流です。血が頭に回らなければ、パフォーマンスも出ないし健康にも悪いのです」とおっしゃいました。つまり、交感神経と副交感神経が調和した時に、血管のサイズが良い状態になるので、バランスが大切だということを教えてもらいました。
ランナーズハイのように、いわゆるゾーンに入った状態は、副交感神経も交感神経も高い状態です。副交感神経は自信と安心で上がります。副交感神経が高い自信満々の時は、ただリラックスしているという感じではありません。例えば、今日のような講演や、外科医が手術する時、大きなプレゼンテーションを行う時、どれだけ準備してきたかで自信満々になることができ、副交感神経の高さに直結します。そこに、行くぞという交感神経が上がった時が、いわゆるランナーズハイの状態で、最高のパフォーマンスが出るのです。
石川遼、松山英樹、横峯さくらといった超一流選手の共通点は、みんなどのような時でも副交感神経が高いということです。一流の選手は、日ごろからきちんと準備しているので自信満々ですから慌てません。ゆっくりと動きます。しかし、追いかけられている二流の選手は目が泳いだり、ソワソワと動いたりします。タイガーウッズがマスターズ優勝した日の朝の映像を見ると、ゆっくりとガムを噛みながらリラックスして歩いているのがわかります。今日頑張らなければならないという日の朝は、そのくらいのテンションでなければいけないのです。
僕は、優勝した2010年のキャノンオープンの日は、いかに交感神経を上げないかということを実行しました。自分にまったく期待せず、記者会見でも86打くらい打ちますと言って、笑いをとったら、気持ちがスーッと楽になりました。これだと思い、交感神経を上げないように、朝も高速道路を60キロでゆっくり走って戸塚カントリーまで行きました。家でリラックスして女房の手料理を食べたのも、良かった原因だと思います。
人は一日中怒っていることもできないし、一日中寝ていることもできません。興奮とリラックスは表裏一体です。例えば、伸びをするとぐーっと伸びて頑張るからリラックスでき、あくびも喉をはーっと緊張させてからリラックスしています。パフォーマンスを上げようと頑張り続ければ、交感神経が高い状態が続いて病気にもなりますし、続けられるわけでもありません。一日の中でのペース配分をどう持っていくかが大事です。何か目標があるならば、いかに自分の多忙なスケジュールや無駄をシンプルにそぎ落としていくかが大事です。着ていない服や使っていないものを捨てて、暇な時間を自分で作っていくことが、目標達成の一番の近道ではないかと思います。
頑張るためにはリラックスすることも大事です。眠いと思ったら10分でも良いので寝る。そうすると次の仕事がはかどります。そういう風に、自律神経をコントロールすれば、ここ一番というときに勝つ秘訣となるのではないかと思います。
私は今年シニアツアーにデビューして、シード権を獲得しています。これも小林先生のおかげだと思っています。皆さんにも僭越ながらおすそ分けして、少しでもお役に立てていただければとお話させていただきました。ご清聴いただき有難うございました。
Q&A
Q:私はゴルフ大好きなのですが、ドライバーイップスになってしまいました。スプーンやクリークは打てるのですが、ドライバーだけ打てません。どうすればよいでしょうか。
A:シニアツアーに出ると、往年のすごいプレイヤーばかりですが、皆さん、イップスを持っています。歳と共に、経験を重ねると共に、そういう症状は必ずやってきます。それをどうやって克服するかというと、全く違う動きを取り入れることだと思います。何か違う打ち方を編み出していただければ、よいのではないかと思います。
Q:今、女子プロのツアーの方が人気があり、男子プロのツアーは放送も少ないようですが、元会長として、今後男子プロをどのようにやっていけば良いとお考えですか。
A:僕も2005年、2006年と選手会長をやり、ツアーの理事もやっていたので、どうしたら良くなるかを死ぬほど考えました。日本のゴルフで一番欠けているのは、配信や放送、パブリシティーが一つにまとまっていない点です。アメリカのPGAツアーは一つにまとまっていて、ESPNなどが放映権を持って1年間放映しています。日本は戸張捷さんが作った仕組みで、スポンサーが仕切るため、テレビ局やBS、CS、インターネットと配信もばらけてしまっています。まとめてひとつで配信するというのが、やらなければならないテーマだと思っています。
でも、なぜ女子プロツアーの人気が男子に比べて高いかというと、満足度の問題だと思います。僕が女子ツアーの前夜祭に行った時に見た、財界やビジネス界の偉い方々の楽しそうな顔は、例え石川遼君がひざまずいてその方々にレッスンしても見られないと思います。それが答えでしょう。