今回の卓話
はじめまして、新宿区の中井でモダン紅型工房をやっている山本加代子と申します。よろしくお願いいたします。
今日は私の保護者的立場で、新宿区のイベント「染めの小道」を13,4年やっている仲間の東さんと、生徒さんの上脇さんにも来ていただきました。
型染めとは、型紙を使って染める染め物です。型染めには、小紋、更紗染め、友禅の型友禅、そして私がやっている紅型があります。小紋は小さな柄の模様が上下の方向に関係なく細かい模様がついているものです。江戸小紋というと柄がもっと細かいものです。華美な柄を禁止した江戸時代に生まれた小紋で、無地のように見えるくらい柄を一色のみで染め上げたのが江戸小紋です。そして更紗はジャワ更紗やインド更紗といった派手な模様の型染めです。シックな柄の和更紗、江戸更紗というものもあります。染め方も手描きや木版に加え、「型染め」も出てきました。さらに友禅があります。京都の友禅斎という人が、扇子用の絵を着物に写して人気になり、それを着物の意匠に取り入れました。それを型紙を使って染めたのが型友禅です。紅型は沖縄の伝統工芸です。私は東京生まれですが、染め物がどういうものか分からない時に出会ったのが紅型でした。なんてきれいな色なのだろう、なんて素敵なのだろうと思って、夢中になりました。それから今までずっと続けています。
紅型は柿渋紙に模様を掘った型紙を使います。その型紙に紗張りをします。そうすると型紙が動かなくなるので、何回も使えます。ここに防染用の糊を置きます。糊が付いていないところに顔料で色を付けます。一度目の塗りは薄く配色する感じで薄く塗ります。二度目に同じ色を重ねます。違う色を重ねる場合もあります。発色をきれいにするために重ねるのです。最後に紅型の特徴である隈取りをすることでとても個性的な染め物になります。
紅型の良い点は自然のものを使っている点です。絹の布に置く糊は餅粉と糠から出来ています。色を付ける染料は化学染料ではなく顔料です。顔料は鉱物の土や動物から作られたものです。例えば、黄色は黄土の土、ベンガラはインドのベンガル地方の赤い土、宝石から出来たものもあります。今は使いませんが、昔は水銀も少し入っていた鉱物もありました。こういう顔料は化学染料と違い水や油に溶けません。そこで大豆の汁の豆汁で顔料を溶いて、鹿と馬の毛で出来た刷り込み刷毛で布に顔料をつけていきます。みんな自然のものです。そこに私はワクワクしたのです。
紅型の値段が高いのはこのような材料と共に工程が長くかかるからです。今の染め物は化学染料が中心になっています。化学染料の方が安く早く染め物が出来上がります。でも私は量産は出来ないし、一人でやっているので、顔料や糊など自然の物を使った紅型の染め物をずっと続けて伝えていきたいと思っています。
私が紅型に出会って夢中になり、やってみようと始めたころは、まだ会社に勤めていましたので、紅型は細々とやっていました。ただ、着物や帯の時代ではなくなってきたので、インテリアとして紅型を掛け軸や屏風にしたら素敵かなと思い、職業訓練校で半年間、表装を習いました。掛け軸というと床の間を思い浮かべるかもしれませんが、紅型の掛け軸は白い壁面にかけると家の中が華やぎます。そして、職業訓練校の卒業後に、カルチャースクールの講師募集に、紅型と表装で応募したところ、両方の講師をやってほしいと頼まれました。表装にはまだ自信がなかったのですが、たまたま近所の方から50本くらいの掛け軸の仕立てを頼まれ、その50本を仕立てたおかげで表装も上手になりました。動くと運がついてくるようです。その後、アメリカンクラブのロビーギャラリーで作品を展示した時に、新宿区の中井にある古い古民家の工房が月6万円で借りられるということで、ただやりたいという思いから工房を借りて今に至っています。生徒さんも20年以上続けている方もいます。
こうしてやってきましたけれど、私は沖縄出身ではないし、沖縄の伝統工芸士にはなれないし、自分なりにオリジナルなものを作っているので、沖縄の伝統工芸の「紅型」という名前を使うのは申し訳ないと思い、「モダン紅型」という名前にしました。深く考えたわけではないのですがこの「モダン紅型」という名前によって、新宿区のものづくりマイスターという称号をいただきました。だから、人生は面白いなと思っています。
今、教室では体験講座もやっています。アーティスト系の方が多いのですが、外国人の方も結構習いに来られています。夏休みに来て一週間くらい続けて通ってこられて、最初から最後まで自分でやりたいとおっしゃいます。それで、普段は私が材料屋から買っている糊も、餅粉と糠からつくって団子状に蒸かしてすりつぶすという糊の作り方で教えます。言葉の面ではなかなか難しいですけれど、何とか頑張ってやっています。日本人よりも海外の人の方が日本の文化に関心があるのかもしれないと思い、私も海外に行って日本の文化を広めたいというのが今の私の夢になっています。残念ながら、コロナの影響でまだいつ行けるか分からないのですが。
新宿区中井の町の図をご覧ください。真ん中に妙正寺川があり、西武線が走っています。そしてこの川の両側に染め物屋がたくさんあり隆盛を誇ったのです。この妙正寺川の水が染物を洗い流すにはちょうど良い成分だったのです。染物屋のほかには、湯のし屋、染み抜き屋、刺繍屋などがあります。染め物屋さんたちは皆さん新宿区の染色協議会に参加しています。
新宿区では、ふるさと納税で税金を他の地方にたくさん流出してしまうので、新宿もふるさと納税をやろうということになり、地場産業である染色も参加して良いということになりました。私も参加したいと手を挙げています。このほか新宿区では、新宿区の染色家が、恵まれない家庭の娘さんの成人式の着物を染めて、レンタルで着てもらおうということになりました。今の区長の任期があと3年あるので、3年間で少しずつ染ためていき、将来もずっとレンタルで着てもらおうということです。プリントではなく、手染めの本物の着物が着られるのですから、染色業界にとっても素晴らしいことだし、その手染めの作家の振り袖を着られる娘さん達にとっても素晴らしい体験だと思っています。
私が何も分からずにやってきた新宿区中井。そこが染色の町でした。京都、金沢、東京は日本の三大染色地です。その東京の新宿区が染色の町なのです。染物に付随する色々な業種の方がいらっしゃいます。今、染色業は衰退しています。一時は300軒くらいありましたが、今は50軒くらいに減少しています。それを盛り上げようというイベントが「染めの小道」です。昔は、妙正寺川の両側で友禅流し、糊を流す作業をしていました。しかし今は、護岸工事をして糊流しができないので、イベントでは、川の上に300メートルくらい反物を架け渡しています。各商店には工房や染め物屋で染めた暖簾がかかり、それは見ごたえのあるすごいイベントです。3日間のイベントに1万6千人が集まったことがあります。運営はすべてボランティアで行なっています。私もそこで染め物を披露でき、うちの生徒さんも出品します。それを皆さんが楽しみに来られて、それが染色の発展につながると良いなと思っています。
本日はどうもありがとうございました。


