2023年5月25日(木)

今回の卓話

「東京パラリンピックで金メダルを獲るまで」

東京パラリンピック水泳金メダリスト/IPCアスリート委員
鈴木孝幸 様

皆さんこんにちは。本日はお招きいただきありがとうございます。パラ水泳をしております鈴木孝幸と申します。

今日は「東京パラリンピックで金メダルを獲るまで」というテーマでお話しいたします。私がパラ水泳でデビューし、強化指定選手に入り、初めて国際大会に出場したのが2003年です。今年が2023年ですので20年間活動しておりますが、全てをお話しする時間はありませんので、どのようなことを考えてパラ水泳に取り組んできたのかを東京パラリンピックまで時系列でお話ししたいと思います。

私は、水泳選手でありますが、スポーツアパレルメーカーの株式会社ゴールドウインに社員として所属しています。現在は、公益財団法人日本パラスポーツ協会及び日本パラリンピック委員会(JPC)にも出向しております。そして、東京パラリンピック期間中の選挙でIPCアスリート委員にも選出され、その活動も行っています。パラリンピックはアテネから東京まで5大会に出場し、現在はパリパラリンピック出場に向けて頑張っています。

多くの方は東京パラリンピックで金メダルを獲得したことで私のことを知って下さったと思いますが、2008年の北京パラリンピックでも金メダルを獲得したことを覚えていただければと思います。東京パラリンピックでは100メートル自由形の金メダルを含め、出場した5種目全てでメダルを獲得しました。

国際大会に初出場した翌年2004年にアテネパラリンピックに出場し4×50メートルのメドレーリレーの平泳ぎで銀メダルを獲得しました。この時の記憶として鮮明に残っているのが帰国した空港での出来事です。到着ゲートの手前でメダリストはメダルをかけて前方に出るように言われたので、きっと多くの報道陣が駆けつけているのだろうと思ったら、ゲートの先に報道陣はわずかしかいませんでした。パラリンピックはこんなに人気がないのかと愕然とし、悔しく思ったことを覚えています。そこでパラリンピックに注目を集めるために考えたのが「オリンピック選手よりもオリンピック選手らしく」ということです。高い意識を持ってトレーニングに励もうと思いました。早稲田大学に入学して水泳部に所属し、日本のトップスイマーから身体が小さいと言われたので、身体を大きくするために4年間必死にトレーニングしました。その甲斐もあって2008年の北京パラリンピックで金メダルを獲得しました。

翌2009年に自分にとって転機となる「100%理論」というものに出会いました。最大限のパフォーマンスを発揮するためには、練習の成果や実力を100%出し切るという考え方です。水泳選手の調整方法で「超回復」というものがあります。大会当日に合わせて負荷をかける練習を積んでいくと、身体の回復と脳の回復との時差によって実力以上の力(120%の力)が発揮できると考えることが多かったので、この「100%理論」という考え方が印象に残りました。

2012年のロンドンパラリンピックの時はスランプに陥り銅メダルこそ獲得したものの、自分の水泳人生の中では一番辛いシーズンでした。この状況を打破するために英国のノーザンブリア大学に留学し、トレーニングを続けました。しかし、2016年のリオパラリンピックではメダルを獲得できず、選手としては潮時かと思いました。ただ、奨学金で2018年までは水泳を続けなければならなかったので、残りの2年間に新たなことに取り組み、結果が出たら東京パラリンピックを目指そうと考えました。肉体改造に着手して体幹強化に努めました。泳ぎのフォームを変えました。さらに自分では必要ないと思っていた心理カウンセリングを受け、そこで得たものへの理解を深めて咀嚼していくうちに、「世の中には変えられるものと変えられないものがある」という考えにたどり着きました。これは水泳を続けていく上で大切なキーワードになりました。それまではライバルのことばかり考えていましたが、自分をどのように変えていけば良いのかを考えるようになり、自分に出来るトレーニングで鍛えた結果、2018年にはアジア大会で5冠を達成し、東京パラリンピックを目指そうという覚悟が決まりました。2020年の東京パラリンピック延期が決まった時も「変えられるものと変えられないものがある」という考え方で、自分ができるものに色々と挑戦して有意義に過ごせました。年齢的には2020年に開催されたらベストだったかもしれませんが、延期になった1年間に可能なことはやれたと感じています。そして、東京パラリンピックでは5つのメダルを獲得することができました。

水泳を通して得た行動面で意識していることが四つあります。一つ目は「習慣化させる」ということです。トレーニングの効果が出るのに最低でも数ヶ月かかります。楽しくもない練習をやり続けるためには習慣化させていくことが必要だと思います。二つ目は「自分に優しく」ということです。苦しい練習をすることは変えられません。そこでなるべく苦しく感じないように、準備運動を入念に行い、疲労を残さないように寝る前にストレッチをして、疲れが早く抜けるようにサプリメントをしっかり摂っています。三つ目は「練習は本番のように、本番は練習のように」ということです。反復練習の中で、本番を意識してトレーニングすることがとても大事だと思っています。四つ目は「後悔の無い状態でスタート台に立つ」ということです。サプリメントを飲み忘れたことを考えながらスタート台に立ったら絶対良いタイムは出ません。絶対に忘れないようにします。国際大会では思い通りに行かないアクシデントがよく起こります。その場合も、アクシデントが起こった状態からの最善をしっかり尽くし、最善を尽くしたから大丈夫だと思ってスタート台に立つことを心がけています。

最後に皆さんにパラスポーツを応援していただきたい、パラ水泳あるいは鈴木孝幸を応援していただきたいということで、皆さんが応援できる三つの方法をご紹介いたします。一つは会場やメディアを通して応援することです。最近は競技団体や選手自身がYouTubeやソーシャルメディアを通じて情報発信しています。私もオフィシャルウェブサイト、Instagram、Facebook、Twitterをやっておりますので、よろしければフォローして「いいね!」をいただければ大変励みになります。二つ目は選手やチーム、競技団体へのサポートです。金銭的なサポートや物品のサポートなど、大変ありがたいです。特に東京パラリンピックを終えてスポンサー離れという状況もありますので、サポートしていただけるとありがたく思います。最後の三つ目が共生社会について考えて行動することです。今一つぴんとこないかもしれませんが、IPCの目標の一つにパラリンピックやパラスポーツを通じて共生社会を実現するということがあります。日本では障害者差別基本法や、最近では合理的配慮という言葉も耳にするようになりました。これは障がい者が選択肢を持てるようにすることだと思っています。ハード面では段差を解消するスロープや低床バス、車いすの積み下ろしが楽なタクシーなどありますが、ハード面だけではだめなのです。タクシーに乗車拒否されたり、健常者が駅のエレベーターを使うため、エレベーターしか選択肢のない障がい者が待たされることがあります。他に選択肢がある人は選択肢の無い人に譲るというのも合理的配慮の一つの形だと思います。こうしたことを考えて行動していただくのもパラスポーツを応援することにつながると思いますので、是非よろしくお願いいたします。

ご清聴いただきまして、ありがとうございました。