今回の卓話
皆さんこんにちは。ご紹介いただきました茶田と申します。
私は奈良県の出身で学生時代までは関西で過ごしておりました。社会人になって最初は政府系の金融機関で投融資をしていましたが、日本の魅力を世界の人に知ってほしい、そういう旅行会社をやりたいと思い、みちトラベルジャパンを創業したのが17年ほど前、35歳の時です。当時は日本への海外旅行者数は世界で31番目でしたが、その後旅行者数は右肩上がりで増加し、コロナ前の2019年には世界で12番目になりました。
私が創業した理由は、多岐に渡る日本の魅力を、もっと世界の人に旅を通じて知ってもらいたいと思ったからです。そして、魅力の幅があまりにも多様なので、パッケージツアーではなく、お客さまの希望や関心に合わせてコンシェルジュ的にテーラーメイドの旅行を提供したら喜ばれるだろうと思い、そういう会社に転職したいと思いましたが、見当たらなかったので自分で創業しました。
元々、奈良や京都に住んでいたので、海外の方々に歴史的な場所も見せたい、また東京のように都会的なところや自然も好きですので、日本の色々な場所を海外の方に案内したいと思ったのも創業に至った原体験の一つだったと思います。テーラーメイドのサービスを提供しているので、お客さまは欧米の方が過半数で、富裕層の知的好奇心の高く、こだわりの強い方に利用していただいています。
コロナ禍の期間は旅行業が低迷しておりましたので、我々の実業の経験を生かしたアドバイザリーや観光コンサルティング事業も新たに展開して参りました。
テーラーメイドの旅行サービスですので、最初に海外からのお客さまがどのようなことに関心があるかをヒヤリングすることから始めます。これまでに受けたリクエストの一部をご紹介いたします。典型的には、家族旅行で、家族みんなにとって日本は行ってみたい国なんだ、というのが旅の動機という方が多いです。また、結構マニアックな関心をお持ちの方も多いです。例えば、中山道や熊野古道を歩きたい(これはもはや有名ですが)、庭園が趣味なので日本でも庭園をひたすら見たい、北海道でバードウォッチングをしたい、地方の5つ星のsmall luxury hotelに宿泊したい、自分の家を作るためのインスピレーションを得るために有名建築家の建物をたくさん見たいなどです。総じて、与えられた情報に反応するというより、自分の中にやりたいことや関心が高いものをもともと持たれており、それを実現するために日本を旅したいと考えておられるという印象を受けております。旅は人生を豊かにするもの、という意識も強いように思います。日本人でもあまり日本国内を旅行されていない方がおられると思いますが、海外の観光客の中には日本が大好きになって何度も訪日される方が増えています。弊社の最近のお客さんが行った場所でも、新潟県十日町、宮崎県飫肥、小豆島の遍路札所など、皆さんも行かれたことが無い場所もあるかもしれません。日本は様々なテーマや関心に応えられる面白い国ですので、世界中のお客さまから注目されているのではないかと思っています。
これまでは「顧客の期待、顧客の体験」についてお話しましたが、少しこの業界の経済的な側面やビジネスとしての切り口をお話したいと思います。私が創業のビジネスプランを立てていた2004年~2005年頃は、海外からの訪日旅行客は600万人程度でした。その後、観光客が訪日旅行者数をけん引する形で、コロナ前には3000万人に達しました。なぜこれほど増加したかというと、世界の人びとの所得が拡大して海外旅行できる余裕が出てきたことがひとつの理由だと言えるでしょう。日本の成長率は主要国の中でも一番低く人口も減少しているのに比べ、海外での経済成長により拡大する世界の富を日本に取り込む一つの手段として、インバウンドが注目されていると思います。もう一つは日本の観光地の人気が高いことです。東京、京都、大阪ばかりでなく、四国でのお遍路や瀬戸内海での高級クルーズ船が注目されるなど、新たなマーケットや需要が作り出されているのです。
今、コロナ後のインバウンドが戻ってきていますが、昔と同じままの観光に戻るのではなく、国全体としてはサービスの質を向上させなければいけないと考えています。特に、日本が本当に好きなリピーターの訪日が増えています。かつて流行った爆買いのようなことではなく、我々日本人が行ったことのないような地域でその土地の人々と交流していただいて、日本をもっと好きになってもらったり、彼らの自己実現や知的好奇心に応えていくような旅行を増やしていきたいと思っています。
観光産業は低収益で、人手不足という問題も抱えていますが、これからは富裕層向けのコンテンツを増やして、高付加価値、高単価で生産性を高めていく必要もあると思います。日本の観光資源の多様性や深みを考えると、今後もリピーターが増えて、世界中から日本に憧れを抱いて来日される可能性はかなりあると、明るい見通しを持っています。
私がよく財界の方々から言われることに、「円安だから増えてるんでしょ。良かったね」とがあります。もちろん、為替によって消費額は左右されますが、日本が行きたい国であることのほうがずっと重要だと考えています。バードウォッチングをしたい方や庭園ツアーに来日される方は、為替を日々見て日本に行こうと決めているわけではありません。2025年の大阪・関西万博の際には我が地域にも誘客してほしいとの声も良く聞きますが、毎年3000万人も海外から来ているのに、その方々が何を期待して来日しているかの理解を深めずに万博のような一過性のイベントに安易に乗っかろうとするのかと思ったりもします。それ以外にも、日本人は、「人気の観光地はどこ」とか「世界遺産だから旅行する」といった、人気とかお墨付きを求めますが、海外からの弊社の利用客は、本当に自分が行きたい場所、関心がある場所に行き、結果として日本人が知らない日本を感じて、消費をしているということをもう少し知っていただきたいなと思います。
訪日旅行業の経済規模は、コロナ前は5兆円という市場規模で、相応のインパクトもある産業になってきました。また成長の可能性が大きい業界です。しかし、海外の人がなぜ日本に何度も来るのかを理解しなければなりません。日本には心に刺さるような素敵な文化がたくさんあります。こうした本物をきちんと見せていけば、更に訪日観光客は増えていくでしょう。また、ただの異文化というだけではなく、快適なホテルや美味しい食事も重要でして、それらが組み合わさって、また日本に来たいと思わせる強みになっていると思っています。
従来の観光業のビジネスモデルは、定番のパッケージツアーを廉価で提供するのが主流でした。その発想から抜け出して、高付加価値で一人一人のお客さまの満足度を高め、高単価に見合ったサービスを提供することが鍵になると思います。
本日お話させていただいたように、来日される動機が日本の様々な文化や魅力に関連しているので、インバウンドは、観光業だけではなく、日本の総合的な文化力が問われる産業だと思います。また、日々の日本の世界でのふるまいなどで日本が尊敬される国であれば、海外から来て下さる国であり続けると考えております。
ご清聴ありがとうございました。以上で今日のお話を終えたいと思います。
