今回の卓話
株式会社道明の代表取締役、道明葵一郎と申します。本日はこのような素晴らしい場でお話の機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。
組紐に馴染みのない方も多いかと思いますので、簡単に組紐についてご紹介させていただきます。
まず、真っ白なシルクの糸を染料で染めて色をつけるところからスタートします。この染めた糸を手作業で、組紐を組むための下準備をしていきます。組紐を組むための道具の一つ、高台という台を使って、鉛の重りの入った玉に糸を取り付けて、一定の手順で動かしていくと、どんどん組紐が組まれていきます。丸台という台では一定の手順で糸を動かしていくと、台の下の方に組紐が出来ていきます。
手作りの組紐は力の加減を調整しながら組むと非常に伸縮性に富んだ組紐が出来上がります。カランコロンという音を奏でながら組むと心が癒されて、とても楽しいものです。
組紐という工芸は世界中にありますが、日本の組紐は世界でも類を見ないほど非常に精緻で、日本独自の工芸と呼べるものだと思います。
6世紀に中国から伝来した組紐は長い歴史を持っています。飛鳥・奈良時代は仏教の法具などに多くの組紐が使われました。奈良の正倉院には当時使われた組紐が多く残っております。平安時代の貴族社会では貴族の装束に使われました。今でも皇室の重要な行事で着用される衣冠束帯に使われる平緒という組紐は1本製作するのに丸1年かかるという大変な労力を要する組紐です。平安末期から鎌倉・室町時代の武士の時代になると、武具に組紐が使われるようになりました。鎧の縅(おどし)と呼ばれる部分はすべて組紐でできています。刀の下緒(さげお)も組紐で作られる代表的なものです。武士の時代が終わり、近現代になると、女性の帯の上に締める帯締めが主要な用途になりました。現代では、道明が作るものの9割5分は帯締めとなっています。
私ども道明は、会社の仕事として組紐の製品を作るだけではなく、古い組紐の調査研究とそれを復元する分野にも力を入れております。法隆寺の幡垂飾(ばんすいしょく)と呼ばれる仏教行事に使用される幡の調査を行い、糸の作り方、撚りの加減、糸の立体的な動き方すべてを再現したものを作りました。また、厳島神社にある平家納経という巻物を留める組紐部分を復元模造したものも作成しました。東北の中尊寺の藤原秀衡の棺のミイラの胸の上に置かれていた組紐は、長年どのように組まれたものかが謎でしたが、二代前と三代前の道明の当主が試行錯誤の末に復元いたしました。
組紐にはさまざまな構造の美しさがあります。織物は自由に横糸を入れることによって絵画のような絵を描くことができますが、組紐は構造がそのまま柄になっています。中国から伝来した当初は非常にシンプルな構造でしたが、時代を経るにつれて日本で独自の発展を遂げて組紐の構造がどんどん複雑になっていきました。これはやはり、日本人の繊細さや目の細かさが生かされているからだと思います。伝統工芸というと昔と同じものをずっと作り続けていると思われるかもしれませんが、技術はどんどんレベルアップしており、一番新しい組紐が一番複雑なものであったりします。
道明では色々と新しい試みも行っています。東京大学の位相幾何学の先生とのコラボレーションによる立体的な組紐の作成や、ファッションデザイナーとのコラボレーションでは、19世紀のヨーロッパの衣服を解体して、組紐とコットンの材料を用いて再構成して衣服の作成を行いました。着物の帯締めに代わる現代版の帯締めとして、ベルトシリーズを作成しております。また、アクセサリーやネクタイなど、世界中の人々に日本の組紐の良さを知っていただくために、さまざまな製品を開発しております。
さらには、新素材の光る糸やビニールチューブを使ったり、シルク以外の強度のある繊維で作った組紐など、新しい素材を使った組紐にも今後力を入れていきたいと思っています。
伝統的なスタイルだけではなく現代的なスタイルでの展示会も行っています。ロサンゼルス、サンパウロ、ロンドンにある外務省のジャパン・ハウスという館でそれぞれ約3か月間、『KUMIHIMO: The Art of Japanese Silk Braiding by DOMYO』という組紐展を巡回展として実施いたしました。
また、道明の取り組みとして、組紐の教室を全国各地で開催しております。今年でちょうど50周年になります。産業として組紐を作るだけなく、出来るだけ多くの方に組紐を楽しんでもらい、技術を知ってもらうことによって、技術が絶えることなく裾野が広がっていくと考えております。神楽坂に、気軽に組紐体験をできる新たな施設を作りました。日本の方だけでなく、海外から来日された方にも組紐の魅力を伝えておもてなしできる施設として考えております。
道明は1652年、承応元年に開業し、創業371年目となります。伝統工芸として持続可能性を成し遂げていると思っています。手仕事で作っている伝統工芸ですので、動力を使わない、二酸化炭素を排出しない低炭素の産業です。近年大量に衣服を作って大量に破棄するという問題が起こっていますが、組紐は手作りなので沢山作ることができません。適量を作って適量を出荷しています。伝統工芸では、職人がいなくなったとか技術が途絶えたというような話を聞きますが、道明では毎年できるだけ多くの職人を育成して持続可能な産業としてのシステムを作っていこうとしております。
また組紐教室や組紐体験にも力を入れており、モノ消費ではなくコト消費として楽しんでいただくことも考えています。カランコロンという音を聞きながら組紐を組んでいると心が落ち着きます。ちょっとした精神修養やマインドフルネスになるのではないかと思います。
道明は非常に小さな組織で、沢山のものを作ることはできませんが、組紐自体も小さなものですし、家族で代々続けるファミリービジネスの適度の小ささが、仕事や組織にちょうど合っているのではないかと思っております。
本日はどうもありがとうございました。

