2024年2月22日(木)

今回の卓話

「鍛えること、育てること」

株式会社金子プロモーション・金子ボクシングジム
代表取締役社長
金子健太郎 様

皆様こんにちは。只今ご紹介に預かりました金子ボクシングジムの金子健太郎と申します。

金子ボクシングジムは父が創立者ですので、父の話をさせていただきます。父は戦後日本人として初めて国際タイトルを獲った東洋チャンピオンです。当時、フライ級世界チャンピオンの白井義男さんと父とが国際タイトルを持ち、ボクシング界を牽引していました。後のファイティング原田を育てた笹崎拳闘会の笹崎先生が父のボクシングの師匠でした。リングを降りると、父はまじめで敬虔なクリスチャンで、碑文谷教会の大石牧師が父の心の師匠でした。私もその大石先生から洗礼を受けて、二代目クリスチャンとして、教会学校の校長をボランティアで務めています。

父は、いざ世界戦を挑むという時に、ボクサーにとっては致命的な網膜剥離になってしまい、泣く泣く引退しました。そして自分が果たせなかった夢を、自分の後継者に託そうと、昭和40年に下北沢に金子ボクシングジムを設立しました。

私は大学のボクシングでアマチュアボクサーとして10戦ほど戦いましたが、目を悪くしてしまい、大学4年で引退しました。その後、金子ジムのアマチュア部のコーチからスタートして、プロのトレーナーライセンスを取得し、最終的に、世界チャンピオン一人、東洋太平洋チャンピオンを5人、日本チャンピオン7人、全日本新人王3人を育てることができました。一番の出世頭は、世界チャンピオンを獲得した清水智信選手です。

私は、33歳で入会した東京青年会議所を40歳で卒業すると同時に、保護司を拝命しました。やんちゃ坊主をボクシングの力で更生できるのなら協力したいという気持ちで保護司になりました。42歳でボクシングジムの会長、東日本ボクシング協会の事務局長になり、48歳でボクシングの興行などをプロモートする会社、金子プロモーションの代表取締役になりました。ジムの会長として強い選手を鍛えて、育てる。保護司として対象者を鍛えて、育てる。教会学校の校長として子供たちの信仰心を育てています。

清水智信は世界タイトルを簡単に獲ったわけではありません。初の世界戦では7ラウンドでTKO負け。その2年後の内藤大助チャンピオンとの試合では、10ラウンドまでポイントでは勝っていたのですが、KO負けしています。その3年後に1階級上のスーパーフライ級で、判定で勝利して世界チャンピオンになりました。チャンピオンは奪い取るものではなく与えられるものなのだという父の恩師の大石牧師の言葉がありますが、チャンピオンにふさわしい選手になっていれば、自然と与えられると信じて頑張り、頂点を捉えることができました。

今日は「鍛えること、育てること」というテーマでお話させていただきますが、5つのポイントがあります。

一つ目は「怒ると叱るの違い」です。怒るとは、一時の感情であり、教え諭すことではない。叱るとは、相手の立場になり己を顧みることなり。怒ると叱るを使い分けることが大事です。

二つ目は「謙虚さが大事」。「誰でも初めは子供だった。しかしそのことを大人になっても忘れない大人はいくらもいない」という米国の言語学者の言葉があります。これは、謙虚であれということです。初心忘るべからずという言葉がありますが、それが大切です。

三つめは「よく聞くこと」。私は選手や社員、生徒、保護司の対象者の方々の話をよく聞きます。彼らの目標や希望、将来の夢などをしっかり共有するようにしています。

四つ目は「よく褒めること」。褒められれば、人は嬉しいですから頑張ると思うので、よく褒めます。

五つ目は「妥協しないこと」。この子はこの辺で良いかとか、この子はこんなもんだろうなどと親が子供の限界を決めてしまったり、指導者が選手や従業員の限界を決めてしまったら、限界を突破することができません。スポーツで全国一になる、優勝するのは並大抵のことではありません。きっと監督は選手の良さを引き出すために、妥協しない厳しさをもって送り出すのだと思います。

そして最後にこれらを「コツコツと行うこと」。これが「鍛えること、育てること」だと思っています。コツコツ努力する人にはかないません。「コツコツは勝つコツ」が私の好きな言葉です。

私が保護観察の青少年に初めての面接の時にする小話をひとつ。お坊さんが弟子と旅をしている時、弟子が落ちている包みを拾うと良い匂いがするので弟子はしまっておきました。しばらく歩くときれいな紐が落ちているので拾うと臭いので弟子は捨てようとします。するとお坊さんが弟子に、良い匂いがする包みは良い匂いのものを包んでいたからで、臭い紐は臭いものを結わえていたからではないか、もともと良い匂いや臭い匂いだったわけではないだろうと言いました。これは、私たち人間も、臭いもの、悪いものの中で育つと悪くなる、良い人たちと出会い、良い人たちの本を読み、良い行いをすること。良い人間になりたいもんだね、という話です。犯罪に手を染めてしまった人も、生まれた時は普通の赤ん坊として生まれます。ただ、育った環境や付き合う仲間によって、犯罪を犯してしまう人がいるのです。私が保護司として対象としているのは、特殊詐欺、オレオレ詐欺の受け子や出し子をしてしまった子たちです。犯罪という意識がなく、先輩から頼まれたからやってしまった子たちです。特殊詐欺は重い罪ということで、犯した青少年は一回で少年院送致になってしまいます。そのバックにいる大人の犯罪者が一番悪いのですが、警察ではその犯罪組織にまでなかなか手が回っていません。かわいそうだと思います。

私たちは、純粋無垢な赤ちゃんとして生まれた翌日から、死に向かって生きていきます。必ず訪れるのは生まれることと死ぬことですから、いかに充実した人生を歩んでいくかが大切なのではないかと思います。

このような私の生きざまのようなものが、皆様の心にとまり、皆様のお仕事や人生のちょっとした励みになればと感じる次第です。

ご清聴ありがとうございました。