今回の卓話
皆さん、こんにちは。東京山の手ロータリークラブの皆様に、今日は「超ヒマ社会をつくる」というテーマでお話させていただきます。中村伊知哉と申します。
かつては官僚でしたが、セガの川功さんに背中を押され、役所を飛び出して渡米し、デジタルテクノロジーとポップカルチャーを融合させた新しい世界を創り出すべく、様々なプロジェクトに携わってきました。大学を設立したのもその一つです。
今日は、AIとロボットに仕事をさせ、人間が超ヒマになる未来の可能性と、その超ヒマ社会をいかにクリエイティブに過ごすかについてお話します。
2011年3月11日の東日本大震災、私はデジタルテレビやインターネットで津波の映像を見て、事態を把握したつもりで現地に飛びましたが、現場で感じたのは、映像では決して伝わらない匂いでした。デジタルは、まだ五感を完全に再現できるレベルには達していないのです。
ラスコーの壁画が世界最古の絵画だと習いましたが、近年、さらに古い壁画がスペインで発見されました。このように、かつて学んだことが覆される時代、私たちは生涯学び続けなければなりません。
グーテンベルクの活版印刷によって、人々は本を読むようになり、じっくり考えるようになりました。そして、300年で近代社会が到来しました。300年後、そのように社会が変化することをグーテンベルクは想像していなかったのではないでしょうか。
そして現代、デジタルの時代が到来しました。スマホやパソコンが普及し、あらゆる場面でデジタルが使われています。企業の採用担当者は、応募者のソーシャルメディアを見て合否を決める時代です。リアルな自分よりも、デジタル空間の自分が重要になってきているのです。
数年前に福岡で起きた中学生の「決闘事件」をご存知でしょうか?LINEでのやり取りがきっかけで決闘騒ぎが起き、120年前の法律が適用されました。デジタル時代の新しいコミュニケーションに、法律や制度が追いついていない現状を表す象徴的な事件です。
デジタルの次に登場したのがAIです。AIは私たちの生活をどのように変えるのでしょうか? chatGPTに「ロータリークラブでのAI活用法」を尋ねてみると、ありきたりな答えしか返ってきませんでした。
AIはすでに、ある程度のレベルの仕事ならこなせるようになっています。しかし、だからこそ私たちはAIを超える、面白くてドキッとするような発想をしなければならないのです。
オックスフォード大学の論文によると、今後10年で50%の仕事が機械に取って代わられると言われています。AIが人間の能力を超えるシンギュラリティは2045年、今からわずか20年後です。
20年前には存在しなかった仕事が、今ではたくさんあります。Google、Amazon、Facebook、Twitter、LINE、メルカリ、Uber Eats、YouTuber、eスポーツ選手… これらの仕事は、20年前に想像できたでしょうか? これから20年後には、さらに多くの新しい仕事が生まれるはずです。
IT革命、デジタル革命、ロボット革命、AI革命… 複数の革命が同時に進行している今、300年後の未来を想像してみる絶好のチャンスです。
AIは、好むと好まざるとに関わらず、自然に普及していくでしょう。であれば、AIを早く自分の血肉とした者が勝つのです。AIが人間の仕事を奪ったとしても、GDPが増加しなければ意味がありません。
問題は、その富をどのように分配するかです。特定の国や企業に富が集中すれば、暴動や戦争が起きかねません。
政府は働き方改革を推進してきましたが、私は「遊び方改革」が必要だと考えています。真剣に遊ぶこと、クリエイティブに暇つぶしをすること、それが人生の重大事になるでしょう。
週休4日制や、1日3時間勤務など、多様な働き方が実現するでしょう。自分の時間とスキルをモジュール化し、仕事と遊びを自由に組み合わせる。そんな生き方が当たり前になるかもしれません。
コロナとウクライナでの戦争、この2つの試練を通して、私たちは多くのことを学びました。
コロナによって、新しいサービスが生まれました。遠隔勤務や遠隔授業も普及し、満員電車から解放される日も近いかもしれません。日本では、医療、教育、行政のデジタル化が遅れていましたが、コロナをきっかけに変化が起きつつあります。
コロナ後の世界は、分散化、オンライン化、バーチャル化が加速するでしょう。都市への集中と地方への分散、リアルとバーチャルのバランスをどのように取るかが課題です。
14世紀のペストによって教会の権威が失墜し、ルネサンスが生まれました。コロナ後の世界では、どのような新しい文化や文明が生まれるのでしょうか?
ウクライナでの戦争は、21世紀においても、武力による領土拡大という時代錯誤な行為が起きることを示しました。同時に、サイバー攻撃やフェイクニュースなど、デジタル空間が主戦場となる新たな戦争の形も見せています。
コロナとウクライナでの戦争、この2つの試練は、私たちに「想定外」への備えの重要性を突きつけました。
変化の激しい時代を生き抜くためには、学び続ける姿勢が不可欠です。そこで私は4年前、情報経営イノベーション専門職大学(iU)を設立しました。
iUは、デジタルを駆使するイノベーターを育成する大学です。産業界と連携し、実践的な教育を行っています。約1000社の企業と提携し、教員派遣やインターンシップの受け入れなどを行っています。
iU最大の特徴は、全員が4年間で起業するという世界初の試みです。9割が失敗に終わりますが、失敗から学ぶ「失敗大学」を標榜しています。
開学から4年、iUはすでに成果を上げています。経済産業省の発表によると、iUの起業率は日本一です。
デジタルとビジネスを学ぶなら、東京が最適だと考え、iUは東京に設立されました。キャンパスはスカイツリーのそばにあり、ベイエリアの竹芝と渋谷にもサテライトキャンパスがあります。
iUでは、様々なプロジェクトが生まれています。例えば、キャンパス内に映像スタジオを作り、BSよしもとというテレビ局を開設しました。
学生運動部を作りたいと考えていますが、なかなか実現しません。大人しい学生が多いので、もっと大学を盛り上げてほしいと思っています。
3.11の直後、銀座のお年寄りたちと話をする機会がありました。彼らは「大丈夫、大丈夫。うちは20年で2回焼けたけど、すぐ立ち直ったよ」と口々に言っていました。関東大震災と東京大空襲、20年で2回も街が焼けたというのです。
日本、そして東京は、焼け野原から何度も立ち上がってきました。伊勢神宮は20年ごとに建物を壊して移動することを1300年繰り返しています。古いものを壊し、新しいものを作り続ける。それがこの国の、そして東京の強みです。
最後に、私の本職は実は漫画やゲーム、アニメなどのポップカルチャーです。クールジャパンの源泉となる創造性について、Adobeが世界アンケートを実施したところ、日本がダントツ1位でした。しかし、「あなたの国はクリエイティブですか?」という質問に対しては、日本が最下位だったのです。
世界から高く評価されているにもかかわらず、日本人は自己肯定感が低い。これが問題です。コロナをきっかけに、この状況を変えたい。窓を開けて、新しい風を入れましょう。
iUの学生に「コロナはチャンスかピンチか」と聞くと、ほぼ全員が「チャンス」と答えます。変化を楽しめる者だけが、次の時代を創ることができるのです。変化を楽しみ、窓を開け、新しい空気を吸い込み、皆で一緒に未来を創造していきましょう。ご清聴いただき、ありがとうございました。


