第1761回例会:2026年6月4日(木)

今回の卓話

市販漢方薬の実用方法(夏編)

国際中医師
藍澤 宝珠 氏

1.漢方が重んじる「体質」と「元気」の正体

皆さま、こんにちは。本日は「市販漢方薬の実用方法(夏編)」と題して、これからの季節に皆さまの身を守るプチケアをお話しいたします。最初にお伝えしておきますが、私は決してただのヤブ医者ではございません(会場笑)。一応、WHO(世界保健機関)の組織から正式認定を受けた「国際中医師」の資格を持っておりますので、どうぞご安心ください。

皆さまは、病気になったら病院に行って、お医者さんに病名を決めてもらい、その病気に合わせて薬をもらうのが基本だと思います。これが西洋医学の考え方です。しかし、漢方の考え方はちょっと違います。漢方は、病名ではなく皆さま一人ひとりの「体質」に合わせてお薬を選んでいきます。

漢方の基本にあるのは、体の中を巡る根本的なエネルギーである「気(き)」です。「いくら寝ても疲れが取れない」「どうも体を横にしたい」という方は、この「気」が減少して体の中に隙間ができている証拠です。生まれたばかりの赤ちゃんは「気」が充満しているから元気ですが、人間は年齢やストレスでだんだんと「気」が抜けていってしまいます。その隙間に、外から悪い「気」、つまり「邪気(じゃき)」が入ることで病気になるのです。春なら「風(ふう)」、冬なら「寒(かん)」、そして夏には「暑(しょ)」やジメジメした「湿(しつ)」の邪気が入り込みます。

ですから漢方の基本は、体に「気」を補って満たし、邪気が入る隙間をなくしてあげること、そして入ってきた邪気を外へ追い出すことなのです。

2. 夏に多発する「5つのトラブル」と実用漢方

これからの季節、夏に多発しやすい5つのトラブル(病気)を重点的に解説します。それぞれの症状に合わせた市販薬をぜひ覚えてください。

① 夏風邪(3つのタイプ)

病院では風邪に同じお薬が出がちですが、漢方は症状によって3つに分類します。

  • 胃腸からくる風邪(食欲不振・吐き気・軟便など): 「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」。これ、今日一番覚えてほしい万能薬です!
  • 喉からくる風邪(痛み・腫れ): 「銀翹散(ぎんぎょうさん)」。
  • 寒気からくる風邪(ゾクゾクする、首筋のこわばり): 「葛根湯(かっこんとう)」。

② 夏バテ

冷房による冷えやだるさといった夏バテには、暑気を払って気を補ってくれる「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」が非常に効果的です。とても軽いお薬ですので、どれを飲むか迷うくらいのちょっとした夏バテの時にはこれを飲んでおけば間違いありません。また、水分が体内でうまく回らず、むくみや喉の渇きが出る時には「五苓散(ごれいさん)」がよく効きます。五苓散は、飲みすぎた翌朝の二日酔いにも劇的な効果があります。

③ 熱中症

熱中症は何よりも予防が大事で、ここでも初期の「藿香正気散」や「五苓散」が活躍します。ただし、病院で熱中症がしっかり治った後に、弱った体力を回復させるために飲むのが「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」です。熱中症の最中に補中益気湯を飲むと、エネルギーを補う作用で熱が体内にこもってしまうので、絶対に飲まないでください。

④ 胃腸虚弱

冷たいものの摂りすぎで胃腸がクタクタになってしまう方には、消化器官全体を元気にする「六君子湯(りっくんしとう)」が最適です。6人の君子が作ったお薬、と覚えれば簡単です。また、ストレスからくる胃の逆流やもたれ、みぞおちのつかえ感には「平胃散(へいいさん)」や「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」がおすすめです。

⑤ 皮膚炎

夏に汗や紫外線で悪化しやすいアトピーや湿疹などの皮膚トラブルには、「消風散(しょうふうさん)」が年間を通して体質を整えてくれます。もし皮膚が赤く熱を持ってめちゃめちゃ腫れてしまった緊急の皮膚炎のときには、熱の毒を冷ます「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」がよく効きます。

3. 漢方薬を劇的に効かせる「スピード」と「長引く風邪」のワナ

漢方薬(特に風邪薬など)を使うときの最大のポイントは、スピードです。「あ、少し喉が痛いな」「胃がおかしいな」と思ったその日のうち、なんなら夜中であってもすぐ飲むのが鉄則です。早く飲めば飲むほど、ほとんど辛い思いをせずに手前で不調を食い止められます。私もいつも枕元にお薬を置いておいて、夜中に喉の異変を感じたらパッと起きてその瞬間に飲むようにしています。

よく「風邪をひいてもう1ヶ月も鼻水や喉の違和感が長引いているから、今から銀翹散を飲もう」という方がいらっしゃいますが、実はもう効きません。銀翹散はあくまで初期段階のその瞬間に飲むから効くお薬だからです。

風邪が1ヶ月も長引いてしまう原因は、最初に西洋のお薬で症状を無理に「抑え込んで」しまったことにあります。西洋のお薬は熱を下げるのには強いですが、体を冷やすため、漢方でいう「邪気を外に追い出す」プロセスを止めてしまい、結果として風邪を体内に居座らせて長引かせてしまうのです。 実は、中国で新型コロナウイルスが最初に流行した際、抗生物質やステロイド剤の多用で患者が重症化する中、多くの人を救ったのは体質に合わせて邪気を外に出す漢方の風邪薬でした。私たち日本中医協会でも、コロナ禍において多くの人を助け、医師向けに本も出版したほどです。一度長引いてしまった風邪は、熱や寒さが体内でどう変化しているかを改めて見極める必要があります。

4. まとめと注意点(このような症状はすぐに病院へ)

漢方は素晴らしいですが、万能ではありません。以下のような重い症状が出た場合は、決して自分だけで処理しようとせず、急いで病院へ行ってください。時間が勝負です。

  • 39℃以上の高熱が出たとき
  • 便の中に血が混じっているとき
  • トイレに何度も行きたくなるが出ないような激しい下痢(しぶり腹)
  • 強い頭痛、またはぐったりして水分が全く摂れないとき

本格的な重い症状は病院にお任せするとして、日々のちょっとした不調には漢方が優しく寄り添ってくれます。まずは皆さま、夏を乗り切るお守りとして、あの万能薬「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」の名前だけでも、ぜひ覚えてお持ち帰りください。

本日は誠にありがとうございました。