今回の卓話
「崩壊学級の立て直し屋」が語る教室の真実
皆さま、こんにちは。梶谷希美と申します。私は元々、埼玉県の公立小学校で13年ほど教壇に立っておりました。当時の私につけられたあだ名は「崩壊学級の立て直し屋」、あるいは「阿修羅」「猛獣使い」……。自分でも笑ってしまうほど異端な出で立ちでしたが、私が任されるクラスというのは、前の学年で学年崩壊を起こし、誰も持ちたがらないような「真っ赤っ赤な引き継ぎ書」が回ってくるクラスばかりでした。
不登校、発達障害、反抗的な子供たち。周囲が「問題児」と呼ぶ子たちを一手に引き受け、彼らと格闘しながら、毎年最後には「最高のクラス」へと生まれ変わらせる。そんな日々を過ごしてきました。現在は退職し、一般社団法人未来学園HOPEの代表として不登校の子供たちとのキャンプ活動や、武蔵野大学で「ウェルビーイング(幸福)」について大学生に教える活動をしています。
本日は、私が現場で見てきた「学校の深刻な現状」と、それをどう未来の希望に変えていくか、そのヒントをお話しさせていただきます。
数字で見る、日本の学校の「末期症状」
皆さま、今の学校で何が起こっているかご存知でしょうか。最新のデータは驚くべき数字を示しています。
かつて「学級崩壊」といえば小学校の高学年や中学生が中心でしたが、現在は小学校1、2年生という低年齢層で崩壊が多発しています。一方で、高学年の教室では、騒ぎはしないものの「死んだような目」をして座り、タブレットの裏でこっそりゲームをしている子供たちが増えています。集団教育というシステム自体が、今、根底から揺らいでいるのです。
なぜ学校は「崩壊」するのか:軍隊モデルの限界
なぜこれほどまでに学校が苦しくなっているのか。それは、今の公教育システムが「時代遅れ」だからです。日本の公教育は、産業革命期に西洋から輸入された「大量の従順な労働者を作るためのシステム」です。
このシステムは、低コストで一斉指導を行うために「軍隊教育」の要素を取り入れました。「前へならえ」「静かに座れ」「言われた通りにしろ」。かつてはこれが機能していました。なぜなら、先生には圧倒的な威厳があり、時には「廊下に立たされる」ような処罰があり、何より「勉強して良い会社に入れば一生安泰」という明確なゴールがあったからです。
しかし今はどうでしょう。処罰は厳禁、先生の威厳は失われ、勉強が将来に直結するという信頼も揺らいでいます。軍隊的なルールだけが残り、それを守る理由が失われた。好奇心旺盛な子供たちにとって、毎日6時間座って話を聞くことは、もはや「苦行」でしかないのです。
教師に求められる「超人的な能力」
今、現場の先生たちは限界を超えています。職員室には誰もいません。なぜなら、校長も教頭も、崩壊した教室の助けに駆り出されているからです。一人の担任に求められるスキルは、今や超人的です。
これほど高度な学びが必要なのに、公的な研修制度は乏しく、先生たちは日々の業務に追われて学ぶ時間すらありません。このミスマッチが、現場を疲弊させているのです。
アドラー心理学が救った「コロナ禍の奇跡」
私がこうした困難な学級を立て直してきた土台には、アドラー心理学があります。人は「自分には居場所がある(自己受容)」「他者は仲間である(他者信頼)」「自分は役に立っている(貢献感)」という「共同体感覚」を持てたとき、初めて本来の力を発揮します。
それを象徴するエピソードがあります。2020年、コロナ禍による突然の「一斉休校」が告げられたあの日です。大人が右往左往し、職員会議が長引く中、1時間半放置された私のクラスの子供たちは、自ら話し合いを始めていました。私が教室に行くと、黒板いっぱいに「先生ありがとう」の文字と飾りが。そして、子供たちが自ら作った「今日一日のタイムスケジュール」を私に手渡してくれたのです。
「もし今日が最後になるなら、後悔しないように自分たちで過ごし方を決めました」
彼らは、先生に言われたから動く「指示待ち人間」ではなく、困難な状況下でも自ら考え、他者のために行動できる「自立した個」へと成長していました。アドラーの教えに基づき、日頃から「係活動」ではなく「クラスのための仕事」という役割を任せていた結果、彼らは自分たちの居場所を自分たちで作れるようになっていたのです。
おわりに:すべては「自立」と「調和」のために
アドラーが掲げる教育の目標は、「自立すること」そして「社会と調和して生きること」です。
子供を「王様」や「お姫様」のように扱うのではなく、一人の人間として信頼し、役割を任せる。「やってあげる」のではなく「一緒にやってみる」。そして「ありがとう、助かったよ」という言葉を届ける。この小さな積み重ねが、子供たちの「生きる力」を育てます。
私は今、学校の外側に「未来学園HOPE」という新しい学び場を作っています。不登校で苦しむ子、自信を失った先生、悩める保護者の皆さま。一つひとつの相談に乗りながら、教育のあり方をアップデートしていきたいと考えています。
学校という場が、ただ座って耐える場所ではなく、子供たちが「自分は役に立てるんだ」と実感し、生き生きと輝ける場所になるように。皆さまの周りでも、もし教育や子育てで悩んでいる方がいらっしゃれば、ぜひ私たちを繋いでください。
日本の未来を作るのは、今の子供たちです。彼らが「生きるって楽しい」と思える社会を、共に作っていきましょう。
本日はご清聴、誠にありがとうございました。


