第1757会例会: 2026年4月23日(木)

今回の卓話

変わる勇気

流通経済大学ラグビーアドバイザー
JPSA日本プロスピーカー特別認定講師
合同会社RISING代表
松井 英幸 様

40歳の鷹が選ぶ「痛みを伴う変革」

皆さま、こんにちは。本日はこのような伝統ある例会にお招きいただき、誠に光栄に存じます。 本日のテーマは「変わる勇気」です。これは私が出版した本のタイトルでもありますが、同時に、かつての「変わることができなかった自分」への強い戒めの言葉でもあります。
今日、私が皆さまにお伝えしたいことは、たった一つ。「まず変わるべきは自分である」ということです。
本題に入る前に、一本の動画についてお話しさせてください。40歳を迎えた「鷹(タカ)」の物語です。40年生きると、鷹のくちばしは長く曲がり、爪は弱まり、羽は重くなって、獲物を捕ることができなくなります。その時、鷹には二つの選択肢しかありません。そのまま死を待つか、それとも「痛みを伴う変革」を選ぶか。 変革を選ぶ鷹は、自らくちばしを岩に叩きつけて折り、新しいくちばしが生えるのを待ちます。その新しいくちばしで爪を抜き、古い羽を抜き去る。数ヶ月の苦しみを経て、鷹は再び大空へ舞い上がります。 かつての私は、まさにこの「くちばしの曲がった鷹」そのものでした。

栄光と、一瞬で崩れ去った30年

私は1985年、千葉県の流通経済大学付属柏高校の創立と同時に、一期生の指導者としてラグビー部を立ち上げました。「実学」を掲げる学校のシンボルとしてラグビーを強化し、創立7年目で念願の花園(全国大会)出場を果たしました。その後は21年連続、計23回の出場。私自身も高校日本代表の監督を務め、現在の日本代表の主軸であるマイケル・リーチ選手たちのユース時代にも関わらせていただきました。
「勝てばいい」「結果を出せば俺のやり方は正しい」。 当時の私は、勝利という結果を盾に、選手に圧力をかけ、強い言葉で支配していました。現に結果が出ていたからこそ、その偏った思考は「確信」へと変わっていきました。
しかし、2015年。その傲慢さがすべてを壊しました。体罰問題で生徒と保護者から訴えられ、NHK、新聞、そしてヤフーニュースのトップを飾る大事件となってしまったのです。 私は監督の座を追われ、教員の職務も剥奪。大学の「目立たない一室」へと異動させられました。事実上の隔離です。30年間積み上げてきたものが、一瞬で音を立てて崩れ去りました。

「外的コントロール」という名の過ち

隔離された部屋で、当初の私はこう思っていました。「俺は選手のためにやってきたんだ。何が悪かったんだ」と。 しかし、2年間の「空白の時間」の中で自分を見つめ直し、ある心理学と出会ったことで、私の「正しさ」がいかに独りよがりであったかに気づかされました。それがウィリアム・グラッサー博士の「選択理論心理学」です。
私はこれまで、相手を批判し、責め、ガミガミ言い、罰でコントロールしようとしていました。これを「外的コントロール」と呼びます。 私は「指導」していたつもりでしたが、選手が受け取っていた現実は「脅し」でした。 私は「愛情」だと思っていましたが、選手は「強制」だと感じていた。 私は「正しい指導」だと思っていましたが、現場は「怖くて本音が言えない空気」に支配されていた。 「伝えた」だけで「伝わっていなかった」のです。相手が何を受け取ったか。それこそがコミュニケーションの唯一の答えであったことに、ようやく気づいたのです。

ニュージーランドで見た「最強のリーダーシップ」

その後、私は一年間ニュージーランドへ渡り、世界最強のラグビー王国の指導現場を学びました。そこで受けた衝撃は忘れられません。 日本の練習は毎日3時間、休みなし。対してニュージーランドは週3回、時間はその半分です。それでいて世界一強い。なぜか。 その答えは「内発的動機づけ」にありました。
コーチは決して命令しません。問いかけるのです。 「君は何のためにラグビーをしているんだ?」「どんな選手になりたいんだ?」「今のプレー、君はどう思う?」 選手たちはコーチの顔色を伺うのではなく、自分の目標のために自ら練習に取り組んでいました。リーダーの仕事とは、外から命令することではなく、内側から「動きたくなる場」を作ること。 かつての私が選手から奪っていたのは、まさにこの「自分で考える力」でした。

変われる人間が、最も強いリーダーである

鷹が自らくちばしを折るように、私もまた、過去の「成功体験」という古いくつばしを叩き折らなければなりませんでした。 人は、衝撃的な出来事か、あるいは上質な情報との出会いによってしか変われません。私にとってあの事件は絶望でしたが、今では自分を変えるための「上質な情報」との出会いだったと確信しています。
皆さまの組織に、未だに「変われずにいる鷹」はいませんか。 もしかすると、それは私自身がそうであったように、リーダーである自分自身ではないでしょうか。 変わることは、過去を捨てることではありません。過去を土台にして、より高く飛ぶための準備です。そして、その新しく手に入れた翼で、誰かに、地域に、次世代に奉仕することです。
「変われる人間こそが、最も強いリーダーである」。 私のしくじりからの学びが、皆さまの組織や、地域への奉仕活動に、何らかのヒントとなればこれほど嬉しいことはありません。

本日はご清聴、誠にありがとうございました。皆さまのさらなるご発展を心より祈念いたします。